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DIALOGUE

IWATA SANBOU

岩田三宝さんにとって今回のプロジェクトを通じて新たなプロダクトを制作することは、これまでの歴史の中でどのような意味がありますか? 

2018年に伝産協会(伝統的工芸品産業振興協会) のプロジェクトに参加し、フランスで「三方」を販売する機会があったのですが、その時にとても反応がよかったんです。三方は神事だけでなく、季節のしつらいでも使われる生活に根付いた神具なんですよ。お正月には鏡餅を飾る台として使われ、雛人形でも三人官女の一人が三方を持っていますし、端午の節句や七夕でも使われます。お月見の時、三方の上にお団子を載せてお供えしたりもしますよね。日本独自の季節の行事と密接に結びついているという背景も、海外では興味をもってもらえました。手応えはあったのですが、日本と海外では使うサイズや文化、求められる量が違ったので、海外の生活習慣を本腰入れてちゃんと調べないとダメだと思ったんです。海外の方にも手に取ってもらえるようなプロダクト作りに、岩田三宝の技術をどう使うことができるのか、可能性を広げたいと思ったんです。 

なるほど。フランスでの手応えがあったうえで、さらに現地のニーズを知るために、今回のプロジェクトに参加されたということでしょうか? 

そうですね。結局現地に住まないとどれぐらいのサイズが欲しいのかわからない。2018年にフランスへ行って以降、商品を持って行き現地の反応を見るということを何回か繰り返したんですけど、日本にいるデザイナーさんとだけやっていても、その場で少し売れて帰ってくるという感じでした。だから今回、現地に拠点を持つデザイナーさんと組めるのはすごく魅力的でしたし、参加するきっかけにもなりました。 

デザイナーとのコラボレーションの中で新しい視点や発見はありましたか? 

今回、ヒノキの三段シェルフを製作したのですが、板材も柱も全部25mmという指定がありました。最初はちょっと薄いんじゃないかなと思ったんですよ。八足案は通常30mm、料亭のカウンターには45mm位の板材を使っているので、攻めたデザインだなと感じました。ところが実際に置いてみると、これがあと5mm厚かったら主張しすぎちゃうんだろうな、と思うんです。無駄という無駄を省いて、本当に限界ギリギリまで引き算し尽くして成立させるというのは発見でしたね。 

価格帯も悩みました。商品として魅力的でも、輸送費により商品価格が上がってしまうと 、現地の商材と比べて割高感が出てしまうのではないかと思ったのです。そこで、買い替えることのない一生モノの家具で勝負してみるのはどうだろう?というのが、今までの自分にない視点でした。僕たちが日々手がけている神具は神事に使うので、品質のよい素材しか使っていません。今回のプロダクトも、年に数台しか売れなくてもいいと覚悟を決めて、ラグジュアリー層へターゲットを振り切りました。最高のものを最高の状態でお届けすることで、一生モノの家具として目に留めてもらえればと思っています。 

八足案とシェルフの形は近しいものがありますが、神具ならではの技法はあるのでしょうか? 

神具は天地無用、自然の理に反しない作り方をしています。この三段シェルフも一本の丸太で作っていて、丸太の上部、中心、下部をそれぞれ3枚の板の一段目、二段目、三段目に使うという作り方をしています。そうすることで、横から見たときに丸太が横たわっているように見えるのです。木目の連続性を見せたくて、シェルフを支える柱も同じ一本の木で作ることにこだわりました。 

木は根っこから葉っぱの方へ、地から天に向かって育ちます。僕たちが作る八足案も、木目を見て、自然界と同じように根っこから葉っぱの方へ組んでいくのです。シェルフもそうすることにより、ヒノキの森がそこに見えるように感じてもらえると思っています。森を感じるシェルフに絵画や花、本を置くと、とても素敵な 空間になるんじゃないかな、とイメージしながら製作していきました。日本では、どちらかというと直線的で 規律性があるような家具が好まれるんですが、このシェルフはあえて左右非対称に柱を配置しています。これは、見る角度により4つの柱が2本に見えたり、3本に見えたり…と、どこから見ても楽しめるようにと考えたためです。  

製作するうえで、ご苦労はありましたか? 

一枚板の板目材を使う時は絶対に反(そ)り止めを施すので、ヒノキより硬い黒壇を使った反り止めを提案しましたが、「白い木に黒いものを入れるのはノイズであって雑念でしかない。反り止めは入れたくないです」とデザイナーさんに言われてしまいました。さて、困ったぞ…と。反ってしまうとシェルフの役割を果たせなくなってしまう。何か方法がないか悩んだ結果、不規則に立てた柱を利用して、天板と天板がお互いに引き合う力を使って反りを止めることにしました。 

また、木の性質を生かした工夫もしています。木の板は木の表面にあたる皮の方に向かって反ろう反ろうとするので、三枚の板を同じ向きに設置すると全部同じ方向に反ってしまうんです。そこで、一番下だけ表裏を逆にすることで、反発する力を使って反りを止められるのでは…と考えました。本来は木目が綺麗に見える木表を上向きにして使いたいんですよ。でも、一番下の板だけ木裏を上に向けることで、横から見た時に一本の丸太になるよう見せることができたら、反り止めにもなるしストーリーにもなる。そう思ってデザイナーさんに相談しました。丸太が地面に寝転がっている姿も想像できるし、木が根っこから天に向かって立っているという感じが出せたんじゃないかなと思っています。 

最初の試作からどれくらいの期間で、何名の職人さんで完成されたんですか? 

あまり時間がなくて、実質半年ぐらいでスピード感ある作り込みをしました。ファーストサンプルで僕とデザイナーさんとでイメージを共有し、基本、僕ひとりで作っていきました。サイズが大きいため、天板を削るなどのひとりじゃできない加工をする時に手を借りたという感じですね。商品の加工自体は実質2~3週間ぐらいで完成させるのですが、使用する木材は完全に乾燥したものを使いたかったので、10年ほど乾燥させた木材をオーダーしました。そのくらい乾燥させないと、湿度や気候に左右されて、ねじれや反りが出てきてしまうんです。 

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