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DIALOGUE

MARUSUE BUTSUDAN

マルスエ仏壇店 / 名古屋仏壇

愛知県弥富市の仏壇・仏具の製造販売店として、1925年の創業から約100年の歴史を持つ株式会社マルスエ仏壇。漆塗り職人であり、4代目として、名古屋仏壇の技術を後世に残すため、仏壇・仏具製造の枠組みを越え、山車・御神輿・日本刀漆塗りなどに意欲的に取り組まれている伊藤氏にインタビューしました。

伊藤さんが4代目になられるまでに、御社にはどのような歴史がありましたか。

マルスエ仏壇は、初代が伊藤末本(すえもと)という名前で、名古屋の熱田で「丸末」という店を創業したのが始まりです。昔、熱田には仏壇屋さんがたくさんあったんです。その後、末本の息子の2代目が弥富に進出して、今の店舗があります。昔はインターネットなんてなかったので、仏壇屋さんというのはそれぞれの地域に根ざした、地域密着の商売だったんです。この辺りは農家の多い土地柄で、豪華な仏壇を求める人が多かったので、2代目はここを新しいマーケットにしようっていうことで進出したんですね。

マルスエ仏壇さんは年間100本以上、仏壇製造をされてると伺ったのですが、すごく多いですね。

100本っていうのは、0から作るのが100本じゃなくて、携わる仏壇が100本っていう意味です。仏壇って、新品で作ることももちろんありますが、「お洗濯」といって、古い仏壇をバラバラにして塗り直すんです。使い捨てではない、すごくサスティナブルな商品なんです。

そして、今はどちらかというと、修復需要の方が多いです。うちは仏壇屋なんですけど、工場では、漆塗りの工程ばかりやっています。仏壇の販売よりも、漆塗りの職人の部分の方が、売り上げも規模も大きいです。

漆塗りというのは、どんな技術なのでしょうか?

まず漆というのは、天然の塗料です。漆の木の樹液ですね。塗料の中でも、塗るのが難しいものです。漆は天然のものなので、1個1個違うんですね。同じ「漆」でも、ちょっとずつ違って、うまく塗れなかったり、天候に左右されやすいものなんです。例えば今日は雨が降っていますけど、こういう日には漆は、すごく早く乾くんです。湿度が高いと、乾きが早くなるので、早く乾きすぎちゃうと失敗するんです。縮むって言って、塗料の表面が早く乾きすぎちゃって、しわしわになっちゃう。そういうのが起こらないように、職人さんの経験やテクニックがあるんです。

「漆塗り」の仕事は、ほとんどが経験で学ぶようなものでしょうか。

そうですね。特にルールがあるわけじゃないんですが、基本的には科学的なことなので、本来はデータをとってっていう感じでも良いですよね。僕はどっちかっていうと、そっちが好きなんですけど。でも多くの職人さんは、経験と手と口で伝えるっていうのがメインになりますね。

塗る仕事って聞くと、手で素材を触らないというイメージがあるかもしれませんが、手の感覚をすごく大事にする職業です。もちろん漆刷毛っていう道具で塗るんですけど、たとえば厚み0.7ミリで塗れと言われても難しいじゃないですか。綺麗に塗りたいと思うと、どうしても厚くなるんです。でも厚く塗りすぎると、表面と中の硬化速度がずれて、縮むって言って、しわしわになっちゃうんです。かと言って薄いと、綺麗に見えないので、ギリギリを狙いたいんですけど、それって本当に経験でしかわからない事なんです。何回かやってみて、ちょっと勇気を出して厚く塗ってみて、こういう気候でこの漆だったらこのくらい塗れるんだな、みたいな。そういうデータを自分の中に溜めてく。そういう地道で時間のかかる作業が必要なんです。

ロジカルな部分と言語化できない部分が混じってるっていうか、言葉で言うのは簡単だけど、実際の動作でそれを実現するのがすごい難しいんですね。人の体調とか、メンタルのコンディション次第でもありますし。

漆というと茶色や黒のイメージですが、こんなにたくさんの色が表現できるんですね。

そうです。漆に顔料を混ぜて作る色漆っていうものがあります。基本的に色にこだわりのある場合は、毎回調色します。ただ、そんなに厳密ではないんです。漆って、狙った色を出しづらいんですね。世の中の色がついた塗料って、基本的に透明の塗料に何かを混ぜて調色するんですが、漆っていう素材はそもそもがちょっと飴色なんですよ。

だから、それを計算して明るくしておいたりとかはするんですけど、色番号があるわけではないので、コンピューターで指定した色をそのまま表現するとかは難しい。技法や調色の調整、乾かし方の工夫をして、なるべく理想に近い色にするという感じです。

マルスエ仏壇さんは、刀の鞘も作られていますよね。

はい。変わり塗りっていう技法があって。普通、漆の塗りって、黒くてピカピカしているイメージですよね。そうじゃなくて、きらびやかな貝だったり、異素材を漆の中に埋め込んだりとか、そういう変わり塗りっていう技法があるんです。

刀の鞘は、去年から事業化したんですが、元々は社長が趣味で始めました。15年か、20年前かな。当時は社内からは冷ややかな目で見られていた部分もあったんですけど。みんな忙しいのに、なんか社長はいつも刀を触ってる、みたいな。そういう時期もあったんですけど、まあ、結果やっててよかったですね。東京のお客さんが多くて、僕が営業に行くんですけど、刀剣やさんから海外のマーケットの話を聞いたりすることも面白いですよ。

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