スミレ堂/印章彫刻
1953年に手彫り印章専門店を創業した「古橋三栄堂」の姉妹ブランド「スミレ堂」。古橋三栄堂の美しく躍動感のある手彫りならではの印章を、より広く広めていくことを使命としています。「スミレ堂」の創業者であり、二代目印章彫刻士・古橋宏さんの娘である増田彩さんにお話を伺いました。
スミレ堂さんは1953年に創業した印章専門店・古橋三栄堂さんの姉妹ブランドということですが、スミレ堂さんを立ち上げたきっかけを教えてください。
理由はふたつあります。印象彫刻士の家に生まれて当たり前のように父の仕事を見てきたものの、あまりにも印章が日常の延長線上にありすぎて、伝統工芸であること、手彫り印章の価値に気づけていなかったんです。日本の素敵な文化なのに。
前職はウエディング業界で働いていました。父や祖父の手仕事を見て育ち、職人に憧れがある一方で、ミラノのオートクチュールドレスに魅了されて。就職した当時の15年~20年前はまだインポートドレスが日本に入って来ていない時代だったので、それを日本の方々につなぐお仕事をしていました。この時の経験で、審美眼が養われたと思っています。海外の美しい文化を知ったからこそ、日本の伝統工芸の美しさや繊細な仕事に気づいたことがひとつ目の理由です。
印章業界も他の伝統工芸同様に、後継者不足や技術の継承という課題があります。また、大量生産の安価な商品の出現という時代の変化もあり、存続するためには伝える人が必要だと気づいたのがふたつ目の理由ですね。そこで、自分で開発した印章商品を取り扱う通販ショップを始めたのがスミレ堂です。
別の業界で海外のドレスを取り扱ってきた経験があったからこそ、日本の工芸品の価値と課題に気づけたということでしょうか。
ハンコの価値を再認識して、自分が強く突き動かされたきっかけは、友人の出産でした。友人が出産した際、お祝いを贈りたいと伝えたら「子供のハンコが欲しい」と言ってくれて。父に頼んで彫ってもらい、贈った時にすごく感動してもらったんですよ。夫婦で一生懸命考えて命名した名前を、想いを込めて彫ってくれてうれしい!と言われてハッとしました。ハンコは実用的で便利ですが、ウエディング業界で働いていた自分としては、出産用のプレゼントとしては地味だし、こんなに喜んでくれるの?と驚きました。ハンコというのは、大切なお名前をお預かりして、形ではない名前を形にするもの。親の想いや願いが込められたお名前を、より美しく、魅力的に小さな円の中でデザインする芸術作品なんだと発見できました。その経験から、普通のハンコではなく贈り物にふさわしいようにケースから開発してみようと思い立ったんです。こうしてヤマザクラのオリジナル木製ケースとビンテージ柘植のハンコセットが出来上がり、スミレ堂のサイトで通販を開始しました。
親の想いが込められた子どもの名前を、丁寧に手彫りされることに価値を見出されたのですね。印章彫刻の技術について、どのような特徴があるのか教えてください。
スミレ堂で取り扱っている商品は、すべて古橋三栄堂の二代目印章彫刻士が手彫りしています。まずは印章の歴史をざっとご説明しますね。印章の歴史は約6000年前 に遡り、紀元前3000~4000年頃に今の印章の起源となる「印」が作り出されたと言われています。日本には、中国の漢王朝時代に日本に授けられたということが始まりですね。西暦57年だそうです。元々はお役人さんや貴族、戦国武将が自らの証を示すものとして使われており、 一般人が使えるようになったのは江戸時代のことだったそうです。商いをするためにハンコが必要だった商人から広まり、印章彫刻士が生まれたというのが現代の印章彫刻のルーツ。名古屋は、朱肉がなくても捺せるハンコを開発したことで有名な「シヤチハタ 」がありますが、ゴム印の発明もまた愛知県なんですよ。名古屋は昔からものづくりの町ですし、色んなアイデアが生まれる場所でもあったんでしょうね。