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DIALOGUE

ANDO SHOTEN

安藤商店/伝統工芸・雪洞製作 

創業102年。良質な木材と和紙が手に入る岐阜で、提灯や雪洞(ぼんぼり)を作り続けている安藤商店。職人の確かな技術と伝統にとらわれない自由な発想で、現代の生活に合った灯りを生み出し続けています。4代目安藤安伸さんにお話を伺いました。

岐阜は古くから提灯づくりが盛んな場所ということですが、その背景を教えてください。 

江戸時代、尾張徳川家のお膝元である名古屋は人形や提灯などの節句工芸品が盛んな地域でした。徳川の時代から明治政府に時代は変わり、そのお抱えだった職人たちは徳川家の仕事がなくなってしまいました。自分たちでこの文化を守っていかなくては…と考え、美濃の和紙や木材、竹が手に入りやすい岐阜市に移住した提灯・雪洞職人が多かったようです。名古屋の問屋さんや商人に購入してもらうため、より上質な素材が揃いやすい岐阜に移動したとのことです。岐阜市には清流長良川があります。上流から美濃の和紙、木材や竹等が流れ着く港のある場所だったのです。立地条件がよいため、これらの素材を使った傘や提灯、雪洞などの職人が集い、有名になったという歴史的背景があります。 

職人の皆さんが名古屋から移住されたということですが、安藤商店さんの創業者も江戸時代からずっとやられているのですか? 

創業者は安藤安吉。私の曾祖父にあたりますが、名古屋で丁稚奉公をしていました。10歳 から名古屋の職人に弟子入りし職人仕事を覚え、独立に際し自分の地元である岐阜に帰ってきたと聞いております。 

2021年1月に、全国で初めて雪洞が伝統的工芸品 に認定されたということですが、どういったポイントが評価されたのでしょうか? 

愛知県全域と岐阜県の一部地域の人形、雪洞、幟旗(のぼりばた)類 、この3つで構成する名古屋節句飾が伝統的工芸品に認定されました。人形は他の産地でも伝統的工芸品に指定されていますが、雪洞が伝統的工芸品に指定されたのは全国で初めての事で、非常に嬉しく思っています。 

名古屋節句飾は東西の良いところ、両方の技術が融合した人形が特徴です。しかしながら、東京・京都等それぞれの地域に先に指定された人形の伝統的工芸品があります。他の産地との差別化として、人形技術力はもちろんですが、特徴的な雪洞や幟旗という文化が合わさることで伝統的工芸品 として認定されています。 

江戸や京都の節句飾りには、雪洞や幟旗はないのですか? 

ないですね。他の産地でも製造している地域はもちろんありますが、100年以上前の技術を用いた伝統的工芸品が作られているところは現時点で他にありません。 

提灯と雪洞、どちらもほんのりとした優しい灯りですが、その違いについて教えてください。 

現在、全国的にみても雪洞を専門に製造している方や、提灯を専門に製造している方はいます。しかし、両方の技術を持っているのは安藤商店だけということで、自分たちの強みとなっています。 

提灯は木枠の型にヒゴをらせん状に巻いていき、型に一枚一枚和紙や絹を外から張り合わせていきます。乾燥したら中の型をばらして、口輪の方から抜きます。伸び縮みでき、たためば省スペースになるので、かつては非常に便利だったわけです。持ち歩きもできて、武士や職人も庶民も使えるものでした。お盆提灯は明治時代に岐阜にいた勅使河原直次郎という方が、明治天皇に献上するために壺型の美しい絹の御所提灯や三本足の大内行灯を開発しました。それにより岐阜の提灯が各地に広まったと言われています。 

一方、雪洞はほんのり明るいことから「ほんわり→ほんのり→ぼんぼり」と呼ばれるようになったと言われています。提灯が型の外側から和紙を張っているのに対して 、雪洞は内張りと言って内側から紙を曲面に張っていきます。曲面に下絵なしで絵を描いていくのは提灯と同じですが、雪洞には提灯には無い骨木という縦骨があります。通常、骨木を曲げるには熱を用いますが、この技術を使える職人が年々減少し、早急な対策が求められています。 

昔は結婚式で大きな雪洞を飾ったようですが、天皇陛下の菊の紋、その蕾をイメージしたデザインだったようですね。その時代、ひな人形というのは高貴な方しか持てない高価なものでした。おひな様を照らす火が人形に燃え移らないよう雪洞は大きめに作られているうえ、たたむことはできません。つまり、ひな人形のある家には、大きなものを入れておける蔵がありますよ、ということで当時では大変ステータスだったと言われています。 

提灯は便利で優雅であり実用性の高い灯り、雪洞はひな人形も含めて高貴な灯りでした。似ていますが、全然歴史が違って面白いです。 

技術を習得するのにどれくらいかかるのでしょうか? 

伝統的工芸品と呼ばれる品質のものを作るには15年から20年はかかります。絵描きに関して言えば、何年もかかる方もいますし、数年でできる方もいますので、こちらは人によります。ひな人形の雪洞作りについては、私どもの中でのプロとは唯一の作品を描く人のことではなくて、100個のものを同じクオリティ、同じ柄で作る人のことを指します。提灯に絵を描いてみたい方がよく面接に来られますが、同じように100個描ける方を育てることが自分たちの目標です。 

雪洞に関する全ての工程を自社でやられているのでしょうか? 

木工は外注している部分もあります。岐阜には曲げる職人、口輪だけを作る職人、下台部分の木のろくろ専門の職人など、様々な職人がいます。専門の職人が仕上げた部品を組み合わせて、張りと絵付けをするのが弊社の専門です。塗装も山県市にある自社工場でおこなっています。私どもは大工でいうと、親方のような役割です。例えば、口輪と呼ばれる輪があるのですが、これを作る職人と曲げる技術を持った職人に依頼して…というように 、得意なものを得意な人に頼んで作っています。 

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