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DIALOGUE

OONOYA BUTSUDAN

職人の技術を守っていくために、新しいマーケットとプロダクトが必要ということですね。 

伝統工芸自体の技術とか美しさというのは本当に素晴らしいものです。売れるもの、人が欲しがるもの、美しいと思ってもらえたものを作っていきたいですね。 

技術を守っていくためには、伝統工芸士になりたいという人が必要です。どうやって興味を持ってもらうかといったら、技術を見せていくのが一番早いのですが、技術を見せる機会が減ってしまった。そして、この仕事で食べていける、稼げるというのも大切なので、新しいプロダクトをみなさんに手に取ってもらうことができたら、伝統工芸士の価値が上がっていくことにも繋がると思うんです。こんなかっこいいものを作れる、なおかつしっかりと稼げる職人さんになりたい!という人が増えるきっかけを作ることで、職人の後継者不足という問題に貢献したいと思っています。 

新しいプロダクトを開発するにあたり、他の業界のことを知らなかったり、トレンドを知らなかったり、というのが出てくると思う。職人さんの年齢層も上がっていっているので、自分としては若くして新しいプロダクトづくりに参加して、外の世界を見て、それを大野屋に活かしていくというのが必要だと考えています。 

技術の価値を広く伝えるためにプロジェクトに参加したということですが、デザイナーとのコラボレーションの中で、新しい技術や、新たに取り入れた思考、視点の変化はありますか? 

海外在住の建築デザイナー・平林さんに提案していただいたのですが、新しい視点はありましたね。ヨーロッパに住み慣れているということだったので、海外の生活様式に即したものやトレンド・ニーズに関しては信頼して進めていきました。今回のデザインは、とてもシンプルですので、見る人によっては面白くないと思われるかもしれません。それでも、デザイナーさんが海外の文化や建築を見て、今はシンプルがいいというお話だったんです。シンプルなものというのは技術がわかりやすく輝くと思うので、その部分は気づきでしたね。 

建築デザイナーならではの視点というのは、どのようなところで感じられましたか? 

今回は漆塗りのパーティションを作ることになったのですが、日本では絶対難しいと思うんですよ。900×1700 mmという大きなサイズなので、大豪邸じゃないと難しいな…と。漆の黒もかなりの存在感です。だからこそ、ヨーロッパでのサイズ感や、部屋を分ける、ものを隠すという使い方は想定外でした。今回は、隠す・見せる、どちらの用途でも使える形であり、部屋を狭く感じさせないサイズ感です。 

また、漆や金箔の技術に対して、反射することにフォーカスされた時に素敵だなと思いましたね。パーティションに反射があることによって、部屋を広く見せ、区切りが曖昧になるという発想は建築的視点なのかなぁと感じました。 

今回の提案の中で、漆の魅力を再発見したということでしょうか。 

漆の価値の活かし方のひとつだと思ったんです。そういう視点を活かして、いかに今後のプロダクトに活用していくのかというスタートラインに立ったような気がしています。日本独自の技術を使ったパーティションが、海外の方にどう見ていただけるかというところも楽しみですね。 


具体的にどのような伝統的な技術を使って漆塗りをしているのか教えてください。 

漆を塗るのには人毛で作った刷毛が重要です。漆の粘りは温度や溶剤の量などほんの少しの変化で緩くなってしまう。漆は希釈して使用するのですが、その希釈具合や粘りと刷毛との相性が合わないとうまく塗れないので、塗りながら刷毛を変えていくことはよくあります。刷毛の長さ、厚み、幅など全部、漆の粘りによって変えていく。それが職人の経験であり、感覚であり、しっとり仕上げるための技術なんです。 

乾きも重要ですね。どんなにうまく塗れても乾きが早すぎると失敗します。大事なのは加湿。自然乾燥です。漆を塗った後、温度・湿度を漆に最適な環境に整えた「風呂」と呼ばれる空間に置いて乾燥させます。温度は22~23度、湿度は75%がベストで、それ以上湿度が上がると縮みすぎ&乾きすぎてしまうのでシワが寄ってしまう。今はエアコンで除湿もできるので、ある程度コントロールしやすくはなっているようですが、かなりデリケートですね。 

今回発表するプロダクトは「ルームパーティション」とのことですが、どのような工程で製作されていますか?関わっている職人さんは何名くらいですか? 

普段の仏壇と同じように、大野屋で組み方や木地をこうする…ということを考え、職人さんへ依頼しました。初めてのものを作るために原寸大の依頼書を作成して、木地師さんに木地を作っていただいて塗り師さんに漆を塗ってもらい、2枚を繋げる蝶番を作るのは金物師さんにお願いしました。最後の仕上げは仏壇の大野屋の仕組師が行いましたので、4人の職人さんで作成しました。 

木は湿度によって数mm単位で厚みが変わるのですが、日本とヨーロッパとでは気候が違うため慎重になりましたね。パーティションの前面のみ漆を塗り、木地を見せるというのもアイデアとしてはあったんですけど、海外への運搬中や現地で反りや割れが出てしまわないかという懸念から、全面を漆でしっかり塗りましょうということになりました。 

とにかく大きかったし初めて作るものだったので、そこに工夫が必要でした。この木地をこういう形で作っておけば塗り師さんは塗りやすいかなとか、この工程ではこう塗ればいいとか、少し溝ができるから漆を塗る時にどうしようかというのは、職人さんと相談しながら作っていきました。 

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