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DIALOGUE

OONOYA BUTSUDAN

パーティションを作成するにあたり、難しさはありましたか? 

自分は、職人さんに依頼してできないことはないと思っています。職人さんの技術を知っていますから「無理です」とはならないことはわかっていました。前例がないということでびっくりしたり、どうやってやろうかなと迷ったりすることがあっても、依頼してできないということはないと思っていました。 

結果的に、今までの技術を活用して、頑丈さ、美しさが際立つ作品ができたなと思っています。 

今回の素材はデザイナーさん提案の木材を使用しました。大野屋は素材ではなく技術で勝負しようと思って製作していきました。 

素材によって反りが出たり、乾燥で割れたりすることも考えられたので、一枚板でどーんと作るということはできなかったんです。木材は湿気の処理に一番気を使います。使用する以前に木材を半年か1年寝かすのですが、それでもやっぱりちょっとしたことで反ってくることもあるんです。職人さんは木材に触れれば乾燥の状態がわかるので、慎重に判断しながら作業してくれたようです。 

パーティションで必要なのは重すぎないこと、頑丈性ということだったので、大野屋で考え、木地師さんに相談して、頑丈性を担保しながら軽くする工夫ができたように思います。 

アール型に切るのが既存の機械では無理だったようで…。機械をお借りして、4枚の板をアール型に切り、中に格子状にした組み木を入れて頑丈にしています。木が反らないように気を付けながら曲線にするため、幅の広い長方形を組み合わせて、最終的に手カンナでつなぎ目をなくすよう整えました。中は強度を増すために二重にして細い釘を打ち、その釘は漆で隠してもらえるように塗り師さんにも相談しましたね。漆を塗るときに差し支えないぐらいの細い釘を使っています。 

漆塗の工程でのご苦労はありましたか? 

先ほど、漆塗は乾燥の仕方によって品質が変わると お話しましたが、パーティションはとても大きいので乾かすのに時間も神経も使いましたね。鏡面仕上げにするためには漆がガチンとしまってから磨きを当てて艶を上げていく作業が必要なので、塗ってから乾かすまで最低でも2週間はかかります。技術的な難しさというよりも、時間との闘いだったようですね。 

これまで約170年受け継いできた技術のこれから先の伝承について、どんなビジョンを持っていますか? 

柔軟な考えで、もっと面白いものを作っていきたいなと思います。「仏壇屋さんらしい商品だね」じゃなくていいと思うんですよ。昔だったら批判されたかもしれない。もしかしたら技術の無駄遣いだって言われるかもしれない。でも、今までとは別の視点で伝統工芸をカッコよく見てもらえて、意外性、驚きや感動があるもの、時代の変化や流行に沿ったものを作りたいと思っています。 

その商品に感動してくださった方が、自信を持ってみなさんに紹介したくなるもの、 周りの人が「欲しい!欲しい!」となるようなものを作り出したいですね。 

周りの人や、自分の子ども世代、孫の世代が喜ぶものでもいいと思います。プレゼントになるものとか、子どもに向けて作るものとか、若者の遊びに使うものだとか、こういうものを作りたいなって考えがいっぱいあるので、形にしていきたいですね。 

伝統工芸の繊細さ、美しさを、今までとは別の方法で伝えていくということでしょうか? 

プロダクト自体に魅力があるものに、付加価値として伝統工芸を施す。強度や繊細さ、美しさ、ブランドという意味でも伝統工芸には魅力があります。木の質感がいいよねって思う人もいれば、このマットな感じがいいよね、 漆のこれカッコいいよねとか…。漆には本当に魅力がたくさんあって、水に強いという他にも、最近では抗菌作用があることも注目されています。「これカッコいいね」「実は伝統工芸でね、こうなんだよ」という発見があったらいいなと。その時に自分たちが技術や効能を丁寧にお伝えすることで、誰かに話をしたくなる。繊細さや美しさを伝える場所が生まれると思うので、そういう場を作って伝統工芸や技術、文化を維持し、価値を再認識していただきたいと思っています。 

この時代に手でものを作ることは、仏壇の大野屋さんにとってどんな意味がありますか? 

機械化できることは機械化しています。道具が便利になり、切る作業にしても、手の動かし方が変わっただけという感覚ですね。扱っている木や漆が生き物なので、反りが出たり気温によって乾きが変わったりしてしまう。幹の位置がどこにあるとか、木のこの辺が触って硬いとかっていうのも、硬度を調べて画像認識させるなど機械化できるかもしれませんが、機械を開発して導入するにはお金がかかります。経験や触ってきたもの、知識を総動員して、実際に手で木に触れてベストな方法で作っていくのが手作業の技術です。個を無視して機械化したら、ある工程で木がパンって割れてしまう、曲がって綺麗に作れないなど難しいと思います。「大量生産できるじゃない。どうして手で作るの?」って言われたら「できないからしていない」と答えますね。本当に美しくて繊細なものは、手作業じゃないと作れない、それだけ価値があると思っています。ロジカルにこういう工程がありますよって職人さんに教えてもらえば、知識として得ることはできる。でも、実際に自分の手を動かすとなると、理解していてもできない、素材がさっきのものと少し違うのでわからないというケースが出てくると思う。その精密な繊細さに価値があるし、手で作る意味があると思っています。 

長い時間と技術をかけて作られたものを、どういう方に使ってもらいたいと思いますか? 

率直に言うと「どなたでも構いません。一時でもその美しさに魅了された方であれば」ということに尽きます。私たちの感性で作ったものなので、それに対して大切に扱っていただきたいという思いはあります。でも、どう使われるかというのは、その人ご自身次第かな…と思います。プロダクトとして美しさとか精密さとか、自分たちの技術を評価していただける。たまたまハッピーな時に見かけた時にそれを綺麗だと思ったとか、晴れた日に反射を見てよかったとか、雨の日に落ち込んでいたけど元気になれたとか。伝統工芸だということで手に取ってくださる方もいれば、パッと見てかっこいいと思ったものが、後から伝統工芸だったのだ…と気づく方もいるかもしれない。伝統技術が施されているものをカッコいい、美しい、素敵だなって魅力的に感じてもらえる方であれば、使っていただくのは老若男女どなたでもうれしいというのが正直なところです。 

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