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DIALOGUE

CHIYODAYA

千代田屋さんでは主にお仏壇の製造を中心に、寺院関係・御神輿など広くものづくりに関わられているとのことですが、主にどんなモノづくりをしているのかについて教えてください。

お寺の修理とかも多い。今作業場にあるのもお寺の部品なんですけど、お寺の修理、祭り屋台の修理とかですかね。うちは特に浜松の山車大工(だしだいく)さんと仲が良くて、浜松では、町内で豪華な祭り屋台を持つというのがステータスなので、すごい豪華な屋台を町内で持っている。本当にすごいですよ。祭り大工の棟梁がうちのことを気に入ってくれたんで、「俺が作ったやつは、みんなここで漆を塗ってほしい」って案内してくれる。

お寺の修繕も、お祭り屋台も、仏壇も、基本的には漆塗りと組立のお仕事を担当されているのでしょうか?

会社としては、プロデュースして完成したものを出すっていうところまでやってきたので、ただ漆を塗ってくださいっていうよりも、仏壇を丸ごとお願いしたいですとか、
お寺の修理、丸ごとお願いしますって言われることが多い。そうするとうちがプロデュースして、日頃付き合いのある職人さんの中から、お客さんの要望に合わせて頼む。色んな職人さんとのネットワークがあるっていうのがうちの一番の特徴です。

広いネットワークがあるから「こんなことできる?」って聞かれたときの回答が早いし、そういうところに特化している。僕も伝統工芸師として、資格は持っていますけど、技術を知っているから、適材適所でコストと作業内容の交渉を含め、色々な職人さんに依頼することができる。

漆という素材について教えてください。

漆っていうのは植物の樹液です。漆の生産者は山へ行って、樹皮を傷つけたところから出てきた汁をヘラで缶にすくってくる。1日中、山へ入って採ってこれる量が1日にたった200g程度。すごい貴重品なの。値段もどんどん上がってる。こっちはカシューっていう人口塗料(4kg)で約8,000円。こっちは中国産の漆(4kg)で11万円。で、日本産の漆(4kg)は40万円〜45万円する。 

素材として、それだけの価格差があるということは、それだけの価値、違いがあるということですか。

そうそう、価値があるの。だって、自然界の中の最高のものだからね。塗った時は見分けられないけど、何十年後の肌の艶が違う。例えばね、カシューは8,000円だって言ったでしょう、あれは乾燥後が一番硬度が高くなるの。でも国産の漆は20年かかる。20年かかって、鉛筆の6Hぐらいまで硬くなる。最初の半年〜1年で硬くなって塗装を完了しましたっていう事になるんですけど、そっから先に、まだどんどん時間をかけて表面が硬くなっていくのが価値なの。人口の塗料は、は最初の乾燥で硬度が頂点となり、そこからはもう硬くならない、どれだけ維持できるか、なの。逆に言うと劣化していく。 

千代田屋さんでは、全て日本産の漆で制作されるんですか?

オール日本産というのはちょっと高価になりすぎるので、まぁ、4割入ったのを半々て言うんですけど、半々の漆を使うのが、世間全体眺めて上等と言えるだろうね。日本産の漆が入ってるっていうのが、相当上等品になるってことですよ。ほとんど普通には並んでないです。一般的な仏壇には、その4割入っている漆もほとんどが使われていないです。私のとこは本体正面板に使うんだけどね。

漆の「呂色(ろいろ)」というのは、光沢を出して仕上げるんです。磨いた時は光っているけど、数年たったら曇るなんていうのではだめでしょう。安い材料でやると、曇っていく。日本産の漆は硬くなる特性があり、硬いものを磨くと光沢が増すでしょう。表面を研磨して光らせる技法なので、その表面が柔らかいか硬いかで艶の出方が違う。長い年月のうちに結果が出るんです。 

漆というのはどうやって塗るのでしょうか。何か特別な道具がありますか。

漆を塗る刷毛はね、パーマのかかってないまっすぐな人間の髪の毛を20cmくらい使って作られているんだよね。この刷毛は、鉛筆を削るように「傷んだら削る」を繰り返し行い、長く使えます。 

漆は、塗った後に、室(ムロ)*1に入れます。室はちゃんと使ってたら20年に1回ぐらい腐るだろうな。だから、室の管理にも相当コストがかかる。塗り物の方の湿度は適当でないと失敗しちゃうんでね。本当はゆっくりと光沢が出ないかんのに、湿度が多すぎたら乾きが早くて表面がちりちりになっちゃったりとかね。要するに蒸し暑い状態になる場合は最高に早く乾く。だけどあんまり湿度がありすぎてもダメ。まぁ、1日ぐらいかけて乾くくらいが、仕上がりが綺麗。経験で、その時に合わせて作業も変えるんです。それから漆の方で調整するっちゅうこともできるからね。乾きの遅いのと早い漆とを調合する。まあ言ってみれば、ものが悪い漆は乾きが遅いんだよな。良いのは早いんだわね。で、それを調整するのが難しいところだね。

*1 室
漆を塗った器物を入れて乾燥させる室。「室」(むろ)の他に「漆室」(うるしむろ)、「漆風呂」(うるしぶろ)とも言う。大きな木の棚の中に、湿らした布を吊るすなど加湿・加温しながら乾燥に適した環境を作る。漆は塗る事よりも乾かす事の方が難しいと言われ、大変気を使う行程。

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