人形づくりの中で、長江人形店さん独自の技術もあるのでしょうか?
ひな人形は基本的な製造方法が決まっているんですけど、衣裳の枚数を多くしたり、サイズを変更したり、配色の組み合わせでお店のカラーを出しています。
もともとは親方も大量に問屋さんへ卸すため、数百単位で人形を作っていました。多くの人形を一定のクオリティで作るのが人形師の役割だったんです。女の子が生まれた時、成長を願って贈るのがひな人形ですが、近年は少子化や「置き場所がない」という住宅事情の変化、節句文化の風習が薄れてきたことにより買わない人も増えて、問屋さんからの注文は激減しています。需要が減っていく中で親方と一緒に考えたのが、大量生産ではなく、オリジナリティを出したひな人形づくりです。そこで、年に一度ある展示会や組合のコンクールにも出品するようになって、問屋に卸すのではなく自社で受注生産するようになったのです。
ここに展示されているおひな様も、屏風がひまわりの花びらになっていて、色使いや小物が現代的ですね。
ありがとうございます。ひな人形は一般的には日本の伝統色を用いるものが大半なんですけど、うちはそれを脱却して、新しい感覚で若い方にも気に入っていただけるひな人形を作りたいと思っています。「ソレイユ~咲き誇るひまわり~」は、一般社団法人日本人形協会会長賞企画部門優秀賞(最高賞)をいただいたもので、扶桑の町花である「ひまわり」をモチーフにしたんです。有松鳴海絞りや尾張七宝など他の伝統的工芸品とコラボレーションしたり、コンセプトに合わせて扇などの小物を手作りしたりしましたよ。現代的な配色のひな人形に、伝統的な小物は合わないですからね。
色使い以外にも、長江人形店さんならではの技術的な特徴はあるのでしょうか?
襟・袖・裾の衣裳を重ねる技術は、十二単の定義では「五衣唐衣裳」といって一般的には5枚で十分なのですが、それを倍の10枚にしてボリュームを出し、裾を均等な割合で末広がりの形状にする技術を親方と考えました。枚数を重ねたうえで末広がりになるよう裁断サイズをmm単位で調整し、豪華に、華やかになるよう改良を加えていきました。正面だけでなく、360度どこから見ても華やかなひな人形になるように、少しずつ最適な形に整えていったのです。ここまで手間をかけて、精度の厳しさにこだわったひな人形を作るのは、おそらくうちだけでしょうね。
衣裳に使用する生地は人形用の反物を使用するそうですね。
はい。量産の人形の衣裳は、10mの反物なら10mすべて無駄なく衣裳に使えるよう柄を合わせた人形専用の反物を使用しているところが多いですね。端切れが出るのはもったいないですから。うちでは色使いや配色もすべてオリジナルで考えているので、染め屋さんを探したり、西陣織の問屋さんに柄や刺繍の色をオーダーしたりして、専用の反物を織ってもらっています。洋風の柄や有松絞りの衣裳は、人形用ではなく人間用の反物を使っていますね。柄を優先して裁断するので、端切れが出てしまい量産には向きませんが。
はい。量産の人形の衣裳は、10mの反物なら10mすべて無駄なく衣裳に使えるよう柄を合わせた人形専用の反物を使用しているところが多いですね。端切れが出るのはもったいないですから。うちでは色使いや配色もすべてオリジナルで考えているので、染め屋さんを探したり、西陣織の問屋さんに柄や刺繍の色をオーダーしたりして、専用の反物を織ってもらっています。洋風の柄や有松絞りの衣裳は、人形用ではなく人間用の反物を使っていますね。柄を優先して裁断するので、端切れが出てしまい量産には向きませんが。
長江人形さんにとって今回の名古屋市のプロジェクトを通して新たなプロダクトを製作することに、どのような意味がありますか?
この先ますます少子化が進み、節句人形という限られた市場だけでやっていくには厳しいと感じています。ひな人形づくりの技術を活かして、国内だけでなく海外でも1年中販売できるような新しい商品が必要不可欠であると思いましたので、応募することにしました。
今回発表するプロダクトは「一輪挿し」とのことですが、どのような工程で製作 されていますか?
木製のフラワーベースを土台にして、ひな人形の襟巻の応用で生地を重ねて装飾しました。フラワーベースの中心には筒状の穴を空けて、七宝焼きの一輪挿しを装着します。材料のオーダーから完成までおよそ2か月の予定です。
今回の製作に使われている技法や素材はどのようなものですか?
ひな人形の姫の十二単を着せる工程のひとつ、襟、袖、裾を幾重にも重ねる技術を活用しています。2~3か月間、手元にある材料を使って試作をしながら生地や材料を決めていきました。いろいろな生地をトライする中で「西陣織のような人形業界の定番素材ではない生地で作りましょう」ということになり、人間の洋服に使われる素材が選ばれたのです。
重ねに使う素材はヘンプウール(ヘンプ20%、ウール80%)に、着物にあたるベースの素材は山梨の工芸品である甲州印伝が採用されました。色合わせにもこだわり、ヘンプウールは織物屋さんに染めていただいているところです。