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DIALOGUE

YAMAKATSU SENKO

伝統の「黒」というのは、普通私たちが思い描く「黒」とどのように違うものなのでしょうか?

市販の黒と、うちで染めた黒をこうやって比べて見るとわかりやすいんじゃないかな。全然違うでしょ。赤みが入っています。染料の配合、そのレシピを作るのがテクニックですよね。着物の場合は、赤く染めてから黒く染めます。絹に下染めをして黒染めをするっていうのが、伝統工芸品の定義ですね。

黒の質っていうことで言うと、例えば市販の黒いTシャツは、いわゆる工業製品です。工業製品っていうのは、どれだけ効率よく、材料を少なくして、利益を上げるかっていう製品ですよね。だから、「黒く見えればいい」んです。でも僕らが目指しているのは「きちんとした黒を染めないといけない」という事です。どれだけ高い材料を使おうが、高い高いって言いながらも、きちんとした仕事をしないといけないというのがゴール地点。最高級。だから、向かっている方向が違うので、全く違うものができるのは当然だと思う。

最高級っていうのは、具体的にどういう部分ですか。

やはり、機械では出せない色味です。ピンポイントでこの色を出したいというのを狙って出しに行くという技術が結構すごい事だと思う。あとはニュアンスを出せる。例えば映画の衣装を染めるときに、そのシーンの風景とかを考えて、例えばちょっとトーンが暗めなのか、明るめなのかって。それを考えてどっちに転ばせるか、とか。機械には感情がないので、そういう風に考えながらはできないですよね。このシーンだからちょっと薄めの方がいいかなとか、ちょっと赤に振っちゃったけど大丈夫かなみたいなニュアンスが大切なんです。

染める色のカラーチップや染料の配合のレシピというのがあるのでしょうか。

レシピというか、出来上がりの色見本帳だけがあります。先代が染めた物が残っているので、それと同じようにという。ただ、染める素材も違ってくるし、素材が変わると染料が変わるじゃないですか。染料が変わるとレシピが役立たない。だから、この色をターゲットにレシピをその都度調整し続けて、色を守る。そこを調整できるのが僕らの強みであり技術です。

日本における伝統の「黒」には特別な意味がありますか?

日本人って黒をよく使う部族なんです。世界を見た時に、ドイツとかも染色の技術は高いですけど、ドイツの場合だと、いろんな色を染色する中の1つが黒なんです。でも日本って面白いね、黒染め屋さんっていうのが成り立てたっていう。それだけ黒は高貴な色ですし、日本人は黒をよく使っていたんです。

今は黒染めの業者は3社しかないんですけど、20年前は20社ぐらいありました。うちも昭和40年後半~50年ぐらいで1億円の売り上げがありましたから。すごいと思いませんか。黒染めだけで。

昔は嫁入りがあれば必ず紋付を嫁入り道具で持っていったんですよね。結婚式があればあるほど僕たちってすごく儲かった時代だった。紋付は皆さんの生活に密接だったんですよね。今は非日常になっちゃってるんですけど、伝統産業って日常使いするものだったんですよ。昔はお葬式も、結婚式も、家で全部していたので、そうすれば嫁入り道具で紋付を持ってかないといけないし、当時は一人一着黒紋付を必ず持っていましたから。

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